ポスターデザインの配色を考える|基本編
はじめに
学会発表用のポスターを作るとき、色使いに気を使っている人はどれくらいいるだろうか。
正直、適当に配色してもまあまあ伝わるポスターが作れる。
それよりも文字や図の配置、フォントなどに気を配った方が伝わるポスターになる。
人に伝えるという目的のために配色が担う役割は、あまり多くない。
ただ私の経験上、世の中には色使いで損しているポスターが結構あるように思う。
配色の役割を正確に理解することで、そのような失敗をしなくなるだけでなく、
伝えるポスターを作る上で配色を武器にすることが出来る。
私が以前、ポスターの配色についてネットで調べてみたとき、
わかったのは「赤色は情熱的」とか「紫色は高貴」とか、そういうことばっかりだった。
そんな本当かどうかもわからないようなことは学会ポスターを作る上ではわりとどうでもよくて、
私が知りたかったのは、どのような配色だと主張を効率よく伝えられるか、ということである。
その後、いろいろと自分で試行錯誤した結果、いろんなことに気がついたので、このページにまとめてみた。
ちなみに、全体的なポスターデザインについては、
学会発表用ポスターを美しくするためのコツ - マクロ生物学徒の備忘録
こちらを参考にしてもらえれば。
基本的なコンセプトはこちらと共通している。
配色の役割とは
まず、テンプレートとしてこんなポスターを用意した。
※内容は適当です。
いずれも無彩色で作ってみた。
配置などはきれいに揃えたつもりなのでそこそこ「伝わる」とは思う。
一方で、これだけ配置やフォントにこだわっても、わかりにくい点や問題点が少なからずある。
そこを指摘していくことで、「ポスターデザインにおける配色の役割」を考えていく。
問題点①「どこが重要なのかがわからない」
みなさんは、学会でポスターをどのように見ていくだろうか。
私の場合は、
・タイトルを見て、テーマを把握する。
・テーマに興味がなくとも、10秒ほど掛けておおまかな主張を読み取ろうとする。
→10秒で理解できないときは…
・テーマに興味がないなら諦めて次に行く。
・テーマに興味があるならあと1分ほどかけて読みこむ。
・主張が面白ければ、覚えておいて発表者に話を聞く。
という感じだが、どうだろう。
別の見方をする人も多いのかもしれないが、
いずれにせよ、短時間で大まかな主張が伝わるかはとても重要だと思う。
先程のポスターを見てみよう。
短時間で内容を把握したい場合、読む場所を取捨選択する必要があるが、
どこを読めばいいかわかるだろうか?
そう、太字のところをみればいい。私もそのように作ったつもりだ。
しかし「太字のところを見ればいい」と理解するのに何秒かかるだろうか?
察しのいい人で3秒、普通は5秒程度かかるんじゃないだろうか。
この「読むべき場所はどこか」を把握するために掛かる時間は、見る人にとっては無駄な時間である。
あまりにも時間がかかりそうな場合、忙しい人は読む気をなくしてしまうかもしれない(私もそうだ)。
よって、発表者はこの時間を極限にまで減らす努力をすべきである。
そこで、次のように改善してみた。
このポスターなら、誰がどう見ても「赤字を読めばいい」と理解できるだろう。
しかも、一瞬で。
つまり、
読んでほしい場所を強調する、
というのが配色の一番大きな役割と言えるだろう。
問題点②「見出しがわかりにくい」
このポスターでは各項目の左上に見出しがついている。
それはいい。
一方で、左下の結果の項目に注目してほしい。
小見出しがついているが、この小見出しと本文の区別が少しつきにくい。
小見出しがわかりにくいと、「結果が2つある」ということを把握するのに少し時間が掛かるということに繋がる。
次のように改善してみた。
大見出しを濃紺に、小見出しを紺にしてみた。
こうすると、見出しがわかりやすくなり、内容も把握しやすくなるだろう。
見出しと本文の区別をつける、
というのも、配色の役割の1つだろう。
問題点③「全体的に地味」
ポスターを見るとき、まずポスター会場を適当にふらふらして、なんとなく気になるポスターだけ読んでいくという人もいるだろう。
そういう意味では、目立つポスターというのは有利だといえる。
また、目立つ配色は印象に残りやすい。
もちろん内容が伴っていないとだめだが、ポスター賞を狙う上でも、目立つというのは戦略の1つだろう。
そこで、こんな感じにしてみた。
テーマ色として水色を採用した。
印象として、随分明るくなったと思う。
周りのポスターにもよるが、そこそこ目立つんじゃないかと思う。
ちなみに、見出しの色もテーマ色に合わせて紺色から青色にしてみた。
見出しは、本文と区別がつけば十分なので、テーマ色と同じでもよい。
むしろ、同じ方が統一感があって良いかもしれない。
そのあたりは後述の「配色のコツ」にて考える。
テーマ色を何色にするかは、センスが問われるところだ。
この辺は応用編(近日公開予定)も参考にしてもらえれば。
配色のコツ
ここまで、ポスターデザインにおける配色には
① 読んでほしい場所を強調する
② 見出しと本文の区別をつける
③ ポスター全体を目立たせる
というような役割があることを指摘してきた。
こうした配色の役割を把握した上で、配色のコツを考えていく。
とにかく強調を殺さない
上述の①〜③の役割には、明確な優先順位が存在する。
内容を効率よく伝えるという目的のためには、なんといっても、①読んでほしい場所を強調するというのが一番大切である。
たとえば、以下の例を見てみよう。
テーマ色、強調色は先程と変わらず、見出しの色をオレンジ色にしてみた。
②見出しと本文の区別をつける、という項目はこれでも達成されている。
しかし、①はどうだろう。
見出しの色と強調色がともに赤系統で似ているため、若干、強調が弱くなっている。
そのため「赤字を読めばいい」というのが把握しにくくなってしまった。
失敗である。
以下の例も見てみよう。
これも、強調がすこしだけわかりにくくなっている。
また、見出しが変に目立ちすぎている気もする。
いや、強調わかるじゃん!って思うかもしれないが、
こうして並べてみると、上よりも、下の方が強調部分がはっきり浮き出ており、
読むべきところが一瞬で把握できるのがわかるだろう。
どうしても、テーマ色に赤色を使いたいなら、
こういう感じはどうだろう。
青色や緑色はあまり強調に向かない色ではあるので、ちょっとわかりにくいかもしれない。
そのへんを改善したければ、以下のようにする。
赤色は強い色なので、少し鈍くして印象を弱くし、
逆に強調色の青色をビビットにして印象を強くした。
色数は少ない方がいい
これも強調を殺さないというのとほとんど同じ話だが、色数は少ない方がいい。
色数が多いと煩雑になって、強調がわからなくなりやすい。
以下の2つを見比べてもらえればわかると思う。
色数多い
色数少ない
色数が少ないの方が圧倒的に強調がわかりやすい。
まとめられる色はできるだけまとめて、彩度や明度で区別をつけると良い。
…しかし、色数が多くても伝わりやすいポスターを作ることも不可能ではない。
冒頭で、色数が多くなることで強調がわからなくなるのが問題だと述べた。
逆に言えば、強調色を邪魔しない限り、色数を多くしても問題はない。
この辺は応用編(近日公開予定)で述べる。
まとめ
配色には以下の役割がある。
① 読んでほしい場所を強調する
② 見出しと本文の区別をつける
③ ポスター全体を目立たせる
このうち、特に①に関してはとくに重要で、
・強調色は強調したくないところには使わないようにする
・強調色と同系統の色もできるかぎり避ける
・色数は少なめにする
ことを心がけると強調がより明確になって、自分の主張をもっと効率良く伝えることができる。